会社を設立するとなると非常に大変で膨大な時間や費用がかかると考えている人もいるかもしれません。しかし、会社にはさまざまな種類があるので、自分に見合った内容・規模の会社を正しい流れで設立すれば、設立する方法は驚くほど大変ではありません。この記事では種類別の会社の設立方法や会社設立のメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
会社設立方法
会社設立の流れとしては、
- 会社の概要の決定
- 定款の作成・認証
- 資本金の払い込み
- 登記申請書類の作成
- 会社設立登記
となっています。それぞれのステップについて詳しく解説します。
1.会社概要の決定
会社を設立する場合には会社の基本的な事項を決定する必要があります。会社の概要として必要になる主な項目は、社名・所在地・資本金・設立日・会計年度・事業目的・株主構成(株式会社の場合)・役員構成などです。
社名
会社を設立する場合には社名を決める必要があります。社名は商号とも呼ばれており、自分の会社を対外的に表示することになる非常に重要なものです。
看板や名刺などにも使用するものになるので、わかりやすくどのような事業を営んでいるのかを伝えやすいものがよいでしょう。ただし、他の企業と似ている社名を使用すると不正競争防止法に抵触して損害賠償を求められることがあるので注意が必要です。
法務省の「オンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査について」を利用して類似した社名がないかどうかを調査することが可能です。
所在地
所在地とは会社の住所のことです。会社を設立する場合には所在地も決める必要があります。ただし、所在地は法律上の住所なので実際の住所と異なっていても問題はありません。
ただし、同じ住所に同じ社名が存在している場合には登記することができないので注意が必要です。また、住所を移転する場合には登記の変更と登録免許税が必要になることも覚えておきましょう。
資本金
現行の会社法では資本金の最低金額が設定されていないので、資本金1円の会社を設立することも可能です。ただし、対外的な信用力確保のためには資本金の金額は非常に重要になります。
例えば、創業直後に金融機関に融資を申し込んだ場合には、売上高などと同様に資本金額も重要な審査項目となります。資本金額が少な過ぎると信用に欠けると判断されて融資を受けにくくなってしまうおそれがあります。
設立日
会社の設立日とは法務局に会社の設立登記を申請した日のことです。登記申請書類を郵送した場合には郵送した書類が法務局に届いた日が設立日となります。
設立日はいつでも自由に決定することが可能ですが、法務局が休日だったり窓口が閉まっている時間だったり書類に不足・不備があったりすると受け付けられないケースがあるので注意しましょう。
会計年度
会社は一定期間の収支を整理したうえで決算書を作成することが会社法などの法律で義務付けられています。会計年度とは、決算書を作成するために区切る年度のことをいいます。事業年度とも呼ばれています。
会計年度を決定するためには、いつを決算月にするのかを決めることが必要です。会計年度が1年を超過しなければ決算月はいつでも自由に決定することが可能です。決算の場合には、収支計算や棚卸作業などが発生するため会社の繁忙なタイミングは回避して設定するようにします。
事業目的
事業目的とは、設立する会社がどのようなビジネス・事業を実施するのか、という目的を明確に示すものです。後述する定款においては、事業目的は取引先や金融機関などが会社をチェック・審査する際の判断材料にもなります。したがって、可能な限り明確で過不足がない内容を決定することが重要です。
会社の設立後に事業目的を変更する場合には、定款と登記の変更手続き(登録免許税が3万円かかります)が必要になります。
会社設立の際に将来的に実施する可能性がある事業を事業目的に記載しても問題はありません。ただし、まったく一貫性がない目的が並ぶと不自然だと受け取られてしまう可能性があるので注意しましょう。
株主構成(株式会社の場合)
株式会社の場合は、誰がどのくらい会社の株式を保有するのか、ということも決めておく必要があります。会社設立前に会社に出資する人を発起人といいますが、会社設立時に取締役を選ぶ権利があります。
役員構成
役員は会社の運営をする人のことで、代表取締役、取締役、監査役、などが該当します。取締役が1名いれば会社を設立することはできます。ただし、取締役会を設ける場合や資本金5億円以上あるいは負債総額200億円以上の会社規模の場合には監査役を設置しなければいけません。
2.定款の作成・認証
上述した会社の概要をまとめたものを定款といいます。会社の憲法とも呼ばれています。定款には、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項、があります。下表を参照ください。
| 記載事項の種類 | 定義 | 具体的な項目 |
|---|---|---|
| 絶対的記載事項 (会社法27条) |
定款に必ず記載する必要がある項目 | ・事業目的 ・社名 ・本店の所在地 ・設立の際に出資される財産の価額又はその最低額 ・発起人の氏名又は名称及び住所 |
| 相対的記載事項 (会社法28条) |
該当したら定款に記載しなければならない項目 | ・現物出資(お金以外の出資。土地や車の出資など) ・財産引受(会社設立の成功を条件として会社が受け取る、または買う予定の財産) ・発起人の報酬や特別利益(会社設立が成功した際の発起人に対する報酬・利益) ・設立費用(会社の設立後に会社が負担する例外的な設立費用) |
| 任意的記載事項 (会社法29条) |
定款に記載してもしなくてもよい項目 | ・公告方法 ・定時株主総会の開催時期 ・事業年度 など |
会社の概要を決定しながら同時並行的に定款を作成することもできます。株式会社の場合には定款を作成後に公証役場で定款が法令に基づいて作成されていることの証明を受ける必要があります。これが定款の認証と呼ばれているものです。
3.資本金の払い込み
会社を発起設立する場合には発起人が、募集設立をする場合には出資者全員が、発起人または設立時取締役のうちの誰か1人の銀行口座に出資金を払い込む必要があります。この際に払い込んだ金額が資本金となるのです。
上述したように1円の資本金でも会社を設立することは可能ですが、最低限の資本金として(設立直後に資金不足に陥らないためにも)、初期費用として運転資金3か月分を足した金額くらいは資本金として用意しておくことをおすすめします。なお、銀行への資本金の払い込みは定款の認証を受ける前でも問題はありません。
4.登記申請書類の作成
会社設立の登記申請のために申請書類を作成する必要があります。申請手続きは司法書士に依頼することも可能です。
必ず必要になる申請書類は、
- 登記申請書
- 登録免許税の収入印紙を貼付した台紙
- 登記すべき事項
- 定款
- 取締役の就任承諾書
- 払込証明書
- 印鑑(改印)届出書
の7種類です。
場合によっては必要になる申請書類は、
- 発起人の決定書
- 表取締役の就任承諾書
- 監査役の就任承諾書
- 取締役全員の印鑑証明書
の4種類です。
5.会社設立登記
原則として、会社の設立日は法務局に登記申請書を提出した日です。登記手続きが完了すれば登記完了証が交付されます。登記完了証が交付されて、登記事項証明書・印鑑証明書・印鑑カードが完成するまでには、登記申請書の提出からだいたい1週間から2週間の時間がかかると考えられます。
会社設立に必要な費用は?
会社の設立に必要な費用は設立する会社の形態によって異なります。ここでは株式会社と合同会社の設立費用について解説します。
株式会社の場合
株式会社を設立する場合には、トータルで約25万円の費用が必要になります。
内訳は、法定費用(実費)が242,000円(定款の認証手数料:50,000円・定款の謄本手数料:2,000円・設立にかかる登録免許税:150,000円)、
その他費用(新たに設立する会社の実印作成代:約5,000円〜・設立時に必要な個人の印鑑証明取得費:約300円×必要枚数・新たな会社の登記簿謄本の発行費:約500円×必要枚数)が数千円かかります。
また、定款の認証手数料については、資本金の額が100万円未満の場合は3万円、資本金の額等が100万円以上300万円未満の場合は4万円、その他の場合は5万円となっています。そして電子定款を利用すれば印紙代の4万円は不要になります。
なお、登録免許税に関しては、資本金の0.7%の金額と比べて、その金額が15万円を超過してれる場合にはその金額が必要になります。資本金額が約2,140万円を超過するようなケースでは上記の限りではないことに注意が必要です。
合同会社の場合
合同会社を設立する場合には、約11万円の費用がかかります。内訳は法定費用(実費)が10万円(登録免許税:6万円・定款に貼る収入印紙代:4万円)、その他費用(新たに設立する会社の実印作成代:約5,000円〜・設立時に必要な個人の印鑑証明取得費:約300円×必要枚数・新たな会社の登記簿謄本の発行費:約500円×必要枚数)が約1万円かかります。
また、電子定款を利用すれば法定費用は6万円で済みます。ただし登録免許税は、資本金の0.7%の金額と比べて、その金額が6万円を超過していればその金額が必要となります。資本金額が約857万円を超過するような場合では上記の限りではないことに注意が必要です。
会社設立後に必要な手続きは?
会社設立後に必要な手続きには、会社の口座開設を行う、税務署・都道府県税事務所・市区町村役場へ法人設立届出書を提出する、従業員を雇う場合、などをあげることができます。詳しく解説します。
会社の口座開設を行う
会社設立が完了したら会社名義の銀行口座の開設をおこないます。銀行口座の開設は個人の場合よりも提出資料が多く開設までに時間がかかることもあるのでなるべく早く手続きに取りかかることが重要になります。
会社名義の銀行口座を開設するためには、
- 会社の登記簿謄本
- 定款
- 会社印
- 代表者の印鑑証明書
- 代表者の実印
- 代表者の身分証明書
- 会社の概要がわかる資料
などが必要になります。なお、金融機関によって提出が費用な資料は異なっている場合があるので、金融機関に必要書類をきちんと確認しておくことが必要です。
税務署・都道府県税事務所・市区町村役場へ法人設立届出書を提出する
会社を設立した場合には設立2か月以内に税務署・都道府県税事務所・市区町村役場へ法人設立届出書を提出しなければなりません。
また、青色申告承認申請書も同じタイミングで提出することが重要になります。青色申告承認申請書の提出は、その後の会社経営における税務上のメリット享受の有無に大きな影響を与えることになるので、忘れないで提出するようにしましょう。
従業員を雇う場合
従業員を雇用する場合には、税務署に給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書を提出しなければいけません。他にも社会保険事務所・労働基準監督署・ハローワークなどに対して各種の届出をする必要があります。
会社設立のメリットは?
会社を設立するメリットとしては、社会的な信用が得やすい・節税面でメリットがある・決算月を自由に設定できる・有限責任になるなどをあげることができます。それぞれのメリットについて解説します。
社会的な信用が得やすい
個人事業主に比べると対外的な信用は大きくアップします。定款や資本金を準備して会社を設立するということは社会に対して大きな責任を持つということのアピールにもなります。
個人事業主が社会的な責任を持っていない、ということではありませんが、組織や体制を整備して役所にさまざまな申請を実施して認可されたということそのものが信用を裏付ける根拠ともなります。
もちろん実際に事業をスタートさせてからでなければ業績や将来像ははっきりとは見えませんが、少なくとも会社を設立していること自体で対外的な信用を得やすくなっていると考えられるのです。
節税面でメリットがある
会社は税金としては法人税を納めることになります。一方で個人の場合には所得税を納めることになるのですが、所得税の税率は最大で45%にもなります。一方で法人税の場合は最高でも23%くらいです。
したがって、会社を設立した方が個人事業主として所得税を支払うよりも税金の支払い額は安くなるといえるのです。つまり、会社設立は節税にもつながるというメリットがあるのです。
決算月を自由に設定できる
個人事業主の事業年度は毎年1月から12月と決まっています。仕事が忙しくても確定申告時期には納税作業に追われることになります。
しかし、会社を設立すれば好きなタイミングに決算月を設定することが可能です。つまり、業務の繁忙期と決算作業月のタイミングをずらすこともできるので負担を平準化することができます。
有限責任になる
株式会社や合同会社を設立した場合には、社員は有責任社員となります。有限責任とは出資した金額の範囲内で責任を負うことをいいます。つまり、100万円出資している人は100万円までしか責任を負うことはありません。
一方の無限責任とは会社の債務すべてに責任を負うことをいいます。つまり、会社が1億円借金をしていたらそのすべての金額について責任を負う(支払う義務がある)のです。株式会社や合同会社の社員は有限責任社員なので出資した金額内でのみ責任を負うことになります。
まとめ
働き方改革が推進されている環境下で副業が盛んになっており、会社を設立したいと考えている人も少なくないでしょう。会社の設立は基本的な手順と手続きを踏まえれば、それほど大変なことではありません。
ただし、会社を設立する場合には、上述したように、社会的責任も伴うことになるので、法律や会計の専門家や家族などとも十分に相談をしたうえで手続きを進めることが非常に重要になります。
会社設立の手続きそのものは考えているほど大変ではありませんが、自分自身の覚悟と将来の事業への見通しが求められることには注意が必要です。


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